元宝くじ売り場を地域のチャレンジスポットに『みなまきTRY STAND』
PUBLICWARE × BEYOND ARCHITECTURE 連載vol.2

2021.10.7

text ; 西大條晶子

〈ツール〉である「プレイスメイキングキット」の誕生経緯をレポートしたvol.1に続き、vol.2ではそれを使用する〈場〉となった「弥生台TRY BOX」の前身、「みなまきTRY STAND」の成り立ちについてお話したいと思います。

勝亦丸山建築計画による場づくりのためのツール「プレイスメイキングキット」とオンデザインの手掛ける地域のチャレンジスポット「弥生台TRY BOX」のコラボレーションを機に始まった「PUBLICWARE」(運営:OpenA/公共R不動産)との、メディア横断企画です。

となりの宝くじ売り場を、エリアマネジメントのために使いたい

相鉄さんよりそんなお話をいただいたのは2018年の秋口のこと。

横浜市・相鉄グループ・横浜国立大学が手を結び運営している、相鉄いずみ野線南万騎が原駅前のエリアマネジメント拠点「みなまきラボ」。そのとなりで営業していた宝くじ屋さんが撤退し、おなじみのアクリル張りカウンターを含む畳2枚分ほどのスペースがしばらくの間、空室となっていました。次の借り手を待っていましたが決定には至らず、半年ほど経過したある日、スペースの持ち主である相鉄さんより、みなまきラボの運営事務局であるオンデザインへその新しい使いみちの相談が入ったのです。

そのころ、「みなまきラボ」は開設から2年が経過し、みなまきピクニックやみなまきマルシェなどを経て、多彩な特技をもつ住人さんたちとのつながりが徐々に増えてきた時期でした。まちを盛り上げていく身としては、知り合う住人さんが多くなるほど、その方々の活躍の場も同様に増やしていきたい。でも公共的な指向性をもつ、「みなまきラボ」では当時、営利につながる販売行為の実施をあまり許可しておらず、特にみなまきに多いハンドメイドを楽しむママさんたちが望むような「物販」の場は、「みなまきピクニック」やマルシェのような大きなイベント時に限っている状況でした。そんな背景の中、新しく設置するこのスペースは住人さんたちの活躍の場を拡げられるよう、以下の方針を掲げることにしました。

 ① 利用者にできる限りの自由を委ねること ※
 ② 第3者に向けた、オープンな場として使用してもらうこと

  ※火気使用などの施設的なNG行為を除く。

「販売はもちろん、基本的に何をやってもokです!ただし、ひらいてくださいね」というものです。

そしてその特徴的な敷地の小ささと路面の大きなカウンターが、住人さんたちのさまざまな「やりたい」の第一歩に火をつけ、活かされるよう『みなまき TRY STAND』と名付け実証実験のスタートを切ったのでした。

宝くじ売り場と、みなまきラボ。

身近で、気軽な、「第一歩」。

ここで「みなまきTRY STAND」のルール(当時)のかんたんなご紹介です。

 ■使用料 | 500円 /3.5時間
 ■使用可能場所 |  ①カウンター内 [室内]
           ②カウンター前の軒下 [屋外]
         ③みなまきワゴン [屋台]
 ■設置備品 | 事務机 1台、丸いす4個

 ◎1期は6か月。後半3か月は後期募集オーナーが加入。
 ◎ オーナーは、使用前にオーナーシップ講座を受講する。
 ◎ オーナーは、使用後1週間以内に所定のフォーマットにて 報告書を提出する 。

ルールとして最初に気になるのは使用料でしょうか。
「気軽な第一歩」が踏み出せるよう、ワンコインの設定です(この設定にうなずいてくださった相鉄さんのご理解に感謝です)。また、冒頭の「弥生台TRY BOX」に思わぬ大きな影響を与えたのが〈「みなまきワゴン」も使える〉というルールでした。「みなまきワゴン」とは、横浜国立大学の有志の学生さんたちが「みなまきラボ」で活用するために設計・制作してくれた2台の屋台のこと。これをラボから借用して店先に設置することで、オープンしていることが際立ってわかるようになったのですが、これだけではないまた別の効果が、のちのち明らかになったのです。

オーナー募集を開始すると、以前からつながりのあった住人さんのほか、その方のお知り合い、はじめましての方も含め7組の住人さんが名乗りを挙げてくださいました。それまでの「みなまきピクニック」やマルシェの出店者さんを想像し、出店内容は手作り雑貨販売が大半を締めるのではと予想する中、ほかにも整体師さんによるプチ整体体験、ネイリストさんによる健康ネイル、アーティストさんによるねんど細工のワークショップ、フラワーアレンジメント、また包丁研ぎといった変わり種まで、バラエティに富んだ出店内容でおよそ1組につき1か月に1度の出店というペースでシフトが提出されオープンしました。

整体師さんとネイリストさんはお知り合い同士。施術のプログラムは見た目のインパクトが足りないからと、オーナーシップ講座で知り合ったフラワーアレンジメントのオーナーさんをお誘いし3人でのコラボ出店が始まりました。
シニア男性の活躍の場をつくろうとDIYが得意な方々とともにお箸づくりや持ち方講習等の活動を展開されているオーナーさんの出店(みなまきマルシェでもご活躍いただいておりました)。木工を扱う腕を、トライスタンドの形態に合わせ包丁研ぎという形で発揮されていました。

七変化する店頭!

運用を開始してみて、とにかく驚いたのがオーナーのみなさんのたった2畳というスペースの使いこなしぶりでした。各々の用途に合わせた空間のカスタマイズと限られた場所を有効に使うための創意工夫によって、毎回、三者三様の場ができあがっていたのです。

その変身っぷりに一役買っていたのが、「みなまきワゴン」でした。既存のカウンターと組み合わせて店頭感を際立たせたり、逆にワゴンだけで独立させ屋台感を出したり。また縦に並べて展示台のように使用していたり、2台あることで可能になる多様な配置によって軒下という小さなスペースにバリエーションが生まれました。さらにワゴンそのものにも装飾を施したり持参のワイヤーメッシュをプラスして側面も展示に使用するなど、シンプルな造りの躯体を自由自在に操る様々な使い方が展開されており、オーナーさんたちはそんな自分なりのアレンジをとても楽しんでいるように見えました。

出店トップバッターだった、シャドーボックス作品の展示販売をされているオーナーさんの出店の様子。見事なワイヤーメッシュ使いと店頭づくりで、アレンジの可能性のお手本を示してくださいました。
コラボ出店もしていたフラワーアレンジメントオーナーさんの単独出店の様子。屋台風に用いた[みなまきワゴン]で作品販売、室内ではワークショップと、お一人でも二刀流で場所を余すことなく使用されていました。
マルシェなどに出店し、ねんどで1000このドーナツをつくるプロジェクトを展開しているアーティストさんの出店の様子。アーティストさんならではのセンスが感じられます。
先のアーティストさんの別の日の出店の様子。毎回ディスプレイを変えたりプログラムを追加してみたり、試行錯誤を面白がっていらっしゃるようでした。

その後もトライスタンドはタームごとに新規のオーナーさんを迎え、住人さんによる新しいトライの誕生と、そんなさまざまな特技をもつ住人さんの発掘の場として機能すると同時に、オーナーさんごとにスペースの新たな使い方が開発され、多種多様な顔を見せていました。

当初、宝くじ売り場のアクリル窓を外して吹きざらしだったカウンターに折りたたみ窓を取りつけたり、シフト組を前期3か月と後期3か月で分けることでオーナーさん同士のコラボ出店(同時出店)を促したりなど、運営側もハード・ソフトともに最適化しながら一通りのスキームができあがってきたころのこと。相鉄さんからまたご相談が舞い込みました。

「弥生台駅前の商業施設にクリーニングやさんがあるのだけど、、、」

南万騎が原駅より2駅先の弥生台駅のテナントがまもなく空くため、トライスタンドと同様のやり方での使用を検討したい、とのこと。
こうして、冒頭の「弥生台TRY BOX」はプロジェクトの産声をあげたのでした。

次回は、いよいよ「弥生台TRY BOX」企画・制作のお話。vol.1でご紹介した「プレイスメイキングキット」が再び登場します。

★ 現在の「みなまきTRY STAND」の出店スケジュールはこちらからご覧いただけます。
☆ 各オーナーさんによるインスタ発信もぜひご覧ください!→#みなまきTRYSTAND

 

執筆者プロフィール
西大條 晶子(にしおおえだ・あきこ)/宮城県生まれ。明治大学卒業。2018年よりオンデザインで、おもに地域拠点の企画運営を手掛けている。

 

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