都市空間の隙間でスポーツを楽しむ
「tranSPORTer」

2021.11.17

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パナソニックの未来創造研究所とPUBLICWAREとのコラボレーション。「都市スポーツ」をテーマ に、プロトタイプを通じて「スポーツが人々の暮らしやまちづくりにどのような価値をもたらすの か?」を追求していくプロジェクトで、新たなプロトタイプが誕生しました。その名も「tranSPORTer (トランスポーター)」。広場や公園など都市の隙間のいたるところで気軽にスポーツが楽しめるプロダクトです。

こちらが tranSPORTer。まずは機能のご紹介から。移動式の箱の中には点数表やタイマー、 コーン、ストップウォッチ、ボール、リング、棒状のバルーン、そして空気入れなど、スポーツをサ ポートするアイテムが入っています。

バルーンに空気を入れて…

あとは場所や状況に合わせて自由にルールを考え、身体を動かしていくというもの。

ここから生まれるスポーツは、空気、光、水、音という自然要素を使ったものとして、「アンビエントスポーツ」と名づけられています。今回は「空気」をテーマに、ボール、リング、棒状のバルーンを使ったスポーツができます。

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こちらの tranSPORTer は、パナソニック株式会社 シニアデザイナーの真貝 雄一郎さんがスポーツ研究の分野を立ち上げ、PUBLICWARE ディレクターの大橋 一隆さんと共に開発されていきました。お二人へのインタビューを通じて、そのデザインや開発の裏側を解き明かしていきます。

公共R不動産のサイトでは、 tranSPORTer の開発までの経緯や、都市とスポーツの可能性についてインタビューをしているので合わせてご覧ください。

日常にスポーツが溶け込む、未来の都市のライフスタイルとは?
https://www.realpublicestate.jp/post/transporter/

(聞き手:菊地純平・中島彩 撮影協力:墨田区)

パナソニック株式会社 デザイン本部 未来創造研究所 シニアデザイナー 真貝雄一郎さん(左)と株式会社オープン・エー/PUBLICWARE ディレクター・デザイナー 大橋一隆さん(右)。プロトタイプ「tranSPORTer」と共に。

 

——都市スポーツ研究から生まれたプロトタイプの「tranSPORTer」。どのようなプロセスでつくられていったのでしょうか?

大橋 都市の中にポップアップでなにかが起こる。その象徴となるプロトタイプをつくりました。まず設計で着手したのは、ハードの部分。自転車で引っ張ってどこにでも持っていける形状を考えて、オフィスの前や公園などの公共空間、芝生広場など街のいろんなところで展開できるように設計しました。

——直感的にスポーツを想起させるデザインですね。

大橋 デザインは、都市とスポーツにおける課題から考えていきました。都市でスポーツをするには球場や体育館など運動公園に行くしかなく、場所が固定化されていて、生活とスポーツは切り離されています。

それを逆手にとって、運動公園が移動して来ることをイメージしました。箱の外側には体育館のアリーナの床や人工芝、陸上競技のトラックなど、運動公園を象徴するさまざまな床の素材を取り入れています。一部を切り取るだけで、誰が見てもわかるんですよね。

さまざまな運動公園の床をイメージしてつくられたボックス。

真貝 スポーツというと体育館やサッカーコートなど大きな“箱もの”が必要なイメージですが、必ずしもそうではありません。少しのスペースがあれば体を動かせる。そのコンセプトを表すデザインとして、いいものになったと思います。

大橋 中身については、スポーツをやるための機能をどこまで搭載できるかをブレストしていきました。びっくり箱のように、運ばれてきてポン!っと場が出来上がり、それ自体がスポーツの拠点になるものにしたいと。

単純な移動型の収納ケースではなくて、トランスフォームするような形で開いていきます。点数表や時計があるだけで、なにかのスポーツが生まれそうな予感がしますよね。

大橋 箱の中にはスポーツをするためのサポート機能を組み込んで、それをどう使うかは、訪れた人の中から発想が生まれていく。あらかじめルールを決めるのではなく、きっかけを提供するというイメージです。

tranSPORTer が何台も出来て、それぞれに違う機能があって、そんなスポーツ屋台みたいなものが一堂に会して運動会のようになったらおもしろそうだなと考えています。今回はそのうちのひとつを試作してみました。

——中身のスポーツについて、なぜサッカーやバレーなど既存のスポーツではなく、「アンビエントスポーツ」なのでしょうか?

真貝 サッカーや野球など既存のスポーツになると、経験者しか関心が持てなかったり、ルールが先行してしまうだろうと思いました。

大人も子供も一緒にいろんな人がスポーツを楽しめるようにしたい。そのために、走るとか投げるとか、スポーツの純粋な行為を取り出していくとどうなるかを考えていきました。

ボールとリングとスティックという、身体を動かすことを誘発するプリミティブな3つのものと、時間と点数というルールを司るものを組み合わせてみてはどうだろう。状況によってさまざまなルールや違うスポーツに変化することが起きうるのではないかと。余白を残すことで、そこにいる参加者に考えることを委ねたい。そんな発想から、白いボール、リング、スティックという形状に行きつきました。

大橋 ブレストでは、空気や音、水や光など、原始的な要素のアイデアが出てきました。音が出るとそこでダンスができたり、アスファルトに水でラインを描いたらコートができたり、光が出れば「ダンスダンスレボリューション」のようにステップを踏む場ができたり。

自然の要素でカテゴライズして、それをきっかけに新たなスポーツが生まれたらいいなと考えました。環境要素から生まれるスポーツということで、アンビエントミュージックのスポーツ版として「アンビエントスポーツ」。空気、音、水、光の中で、今回は「空気」に着目しました。空気であれば、その場で膨らましてツールができるので、ポップアップという文脈と相性がよかったです。

 

真貝 ポップアップという文脈を考えていたので、特別なアイテムを用意するのではなく、できる限り“そこにあるもの”を活用したいと考えました。例えば公園でやる場合は、水道がありますよね。ライトや音や空気だったら、後処理が不要で撤収も簡単です。自然の要素を活用することで、ポップアップとしてボリューム感が出ることもわかりました。

大橋 アンビエントスポーツのシリーズとして、この先は光、音、水といった違う要素のプロトタイプをつくってみたいですね。

昭和の“紙芝居おじさん”みたいに、近所の公園や広場にふらっと来てくれたら…、なんて想像しています。

 

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今後は、実際に公園で子供たちに遊んでもらったり、あらゆる場所でワークショップを開催するなどして、実証実験を重ねていきたいと話すお二人。実際にいろんな場所で使ってみることで、新たなルールが生まれていき、スポーツのバリエーションが増えていくというわけです。

「 tranSPORTer をいろんな場所で使い、都市とスポーツの可能性を考えていきたい。自治体やまちづくりに取り組む企業で興味を持っていただける方がいれば、ぜひ一緒に取り組んでいきたい」と真貝さんは話します。

実証実験の場所の提供、コラボレーションのアイディアなど、ご興味のある方は公共R不動産・PUBLICWAREまでお気軽にお問い合わせください!

 

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